2015年9月5日土曜日

映画「立候補」(2014)

また放置してしまった。前回更新後の年末から4月までは自主でドキュメントの撮影をして、その後は他人の作品を手伝ったり共同で小さい映像の監督をしたりしていた。そして撮りっぱのドキュメントに関しては何も手をつけてねえ。この時代ドキュメントなど、被写体が居れば誰でも撮れるものであり、趣味か本気かの違いは、もはや「編集」のみであろう。

2014年、山口の実家に帰っていた元CM監督が、素材も然ることながら、「編集」でものすごいドキュメントを作っていた。去年、ポレポレ東中野で公開され、毎日映画コンクールドキュメンタリー部門受賞、現在は日活からDVDになって、レンタルもされている選挙ドキュメンタリー、映画「立候補」である(予告・https://www.youtube.com/watch?v=u85B8gMad5s)。ある候補者の立候補から当落までを追った映像だが、ただ、この「選挙ドキュメンタリー」というものは、先発で既に有名なものがある。想田和弘監督の観察映画、「選挙」である(https://www.youtube.com/watch?v=OH3_OZKAEfs)。
「選挙」は今作とは対照的に、解説のテロップや編集を極力なくしたことで、見ている人が監督に振り回されない、ただ被写体を観察するだけという、ユニクロ全盛期みたいな映画であった。世の中には、表現活動の現場を下敷きにした映画やノンフィクションは腐るほどあるが、選挙活動をここまで細かく撮影した映像は「選挙」ぐらいだろう。
この「選挙」は監督の母校である東大の自由人な同級生が、小泉時代の自民に担ぎ出され(自由人の書いた本を読むと自発的に面接は受けている)、宮前平という世にも微妙な土地から出馬して当選するまでの、ある種宗教のような自民党の選挙活動を、夫婦の寝室にまでカメラを持ってって追ってったものである。

そしてそんな名作があるにも関わらず、映画「立候補」は霞むこと無く、より現代的に演出している。始めは映画「立候補」の監督も、「選挙」と同じような手法で撮影しようとしたようだが、結果的にはそうせず、かなり演出を加えたことによって、映画「立候補」の面白さは自分の中では「選挙」を上回っている。

そもそも自分は政治に関心がなくて、あらゆる手続きも知らない、選挙に行った事も無い売国奴&非国民で、邦画も最近ほとんど見てないが、映画「立候補」は、「次回こそ行こう」と思わせてくれる、そして「ハリウッドよりも面白い」と思わせてくれてくれる、そして「きもい顔」としか思ってなかったマックを「大好き」、もしくは「大嫌い」にさせてくれる、斬新で魅力的な選挙ドキュメンタリーであった。

この映画を、まずは全力ネタバレしながら見ただけの感想と、監督の書いた本・ポプラ新書「泡沫候補
彼らはなぜ立候補するのか」を読んでの補足を書き、その後なんぜこの映画が面白いのかを書こうと思う。

監督・藤岡利充・1976年山口生まれ(39歳)。29歳でデビュー(ソフト化せず・予告(https://www.youtube.com/watch?v=u8KkP_oVgzc)を見るとかなり粗い)、デビュー後、CMディレクター、その後実家へ。数年後今作に取りかかる。俺の先輩と友達だったようだ。確かにその人も76年生まれだ。《P3より(以下、ページ数は「泡沫候補〜」のページ数)、CM業界には6年従事し、デビュー作「フジヤマにミサイル」は二週間レイトショー公開されている(公開されたシネマアートン下北沢は社長逮捕により08年閉館)。なお、P174より、監督の父も28年間町会議員をしていた》

舞台となる選挙
2011年末、比較的、東日本大震災の影響を受けてない大阪。当時知事だった橋下徹は、(今年住民投票で否決され廃案となった)「大阪都構想」を掲げ、当時市長の平松邦夫を蹴落とすため、知事を辞め、市長選に出馬。同時に橋下の後任となる知事選も行われた。結果、橋下と、橋下の党である維新の会の、松井一郎が市長・知事で二人とも当選した。今作の主役のマックは、この松井が受かった知事選に出馬した。

登場人物(パンフに詳細が載っていたが失くしてしまったので本編から)(パンフを失くしたのは表紙のマックの顔が気持ち悪いから、家に人が来る時に隠したらそのまま失くしたから)
マック周辺
○マック赤坂・本編の主人公。1948年生まれ(67歳)。京大卒。スマイル党でスマイルセラピーを推進する頭のいい狂人。泡沫候補界でも有名な泡沫候補。今回の政見放送(以下YouTubeリンクは同)・https://www.youtube.com/watch?v=GpzImEeJbbM
○櫻井秘書・高時給目当てにマックの運転手の求人を見て応募したマックの秘書。幼い長男と、難病の赤子の長女を持つ。
○戸並健太郎・マックの一人息子。マックの貿易会社の社長。マックの本名は戸並。

同時に立候補した候補。
○岸田修・マジギレ。https://www.youtube.com/watch?v=3n4jrCgqVro
○中村勝・シングルファーザー。https://www.youtube.com/watch?v=fitYeBVJtpg
○高橋正明・老人。https://www.youtube.com/watch?v=iwMmf-1EOxQ
○松井一郎・泡沫ではない。橋下傘下。維新の会。https://www.youtube.com/watch?v=8xAui2GwFT0
○梅松章二・泡沫ではない。映画には出てこない。共産。
○倉田薫・泡沫ではない。映画には出てこない。平松側。

その他登場する泡沫候補
○羽柴秀吉・秀吉の生まれ変わりを名乗るが家康顔。この選挙も出る予定だったが、病気のため出馬断念。現状故人。
○外山恒一・「まだ反抗期」のはげ。

なぜか登場する大物
○橋下徹・大阪市長。元タイタン。現状、今期が終わると政界から引退宣言。
○安倍晋三・当時(出演部分の撮影は2011年ではない)も今も総理大臣。

以下全シーンの構成と俺の感想。

テロップ『この作品は、特定の政党や候補者を支持・応援するものではありません。』

府庁前の公道、大阪府知事候補・松井一郎の出陣式(立候補後に勝利を祈る式)が行われている。
マスコミの前で選挙カーに登る松井の映像が、故障したアナログテレビのようなノイズと共に途切れる。
こういった、映像加工ソフト、アフターエフェクツのプラグインを使用していると思われる、尖ったスタイリッシュな編集が、暇になりがちなドキュメンタリーを非常に見やすくしている。
再び画面が出ると、選挙カーの前に、大声で罵声を浴びせながら893のようなスーツのおじいちゃんが乱入する「知事出てこーい!」「こうなったらもう出て行けー!」止めようとするSPには「誰に口聞いてるんやワレ!」。
狂気じみた幕開けから、『政治』というものがいかにやっかいでタブーな部分を孕んでいるかを思い出させ、緊張感が高まる。
《P23より、監督は路上での撮影において、自作の身分証を首からかけて腕章もしていた。そうして堂々と撮影する方が警戒されず、映されたくない方は避けていくので、トラブルが少ないとの事。モザイクのかかってない通行人が多いのはこのスタイルで撮影したためか。尚、俺も自分の撮影用に百均で両方買ったが、一回も使ってない。やっぱはずい》

投票所の前を行き来する有権者たち。テロップ『今の政治に不満がある』。その不満に対する反応として、選択肢が出てくる。
1.家の中でグチる。
2.家の外でガナる。
3.投票へ行く。
4.立候補する。
5.革命を起こす。
4番の『立候補』が、黒みに浮かび上がり、タイトルとなる。この選択肢はRPGのゲームを意識したものと思われる。
《P215より、試写段階では、「選挙は300万円を払ってするゲーム」という意味で完全にゲーム風のフォントでタイトルを作ったようだが、クレームが多く止めたようだ。だがBGM、効果音、予告のテロップのフォントなどはまだゲーム風のまま。結果的に押し付けがましさが無くなっていてちょうど良い。なお、登場人物がしゃべっている会話のテロップは、なぜかペン字風でださい》

上記の選択肢のように、ガナる、さっきのアウトサイダーじじいでもなく、投票へ行く、投票所に集まる人たちでもない、立候補の選択肢を選んだキャツラの物語が始まる。

元CM監督らしさのある、格好いいオープニング映像。
ロールスロイスの先端からエンブレムが出てくる。車の先端にカメラを付けてエンブレムに向け、新宿駅前から走り出すロールスの長回し。車内のポータブルプレイヤーでは、有名な、外山恒一の選挙演説(https://www.youtube.com/watch?v=5Tg5H3fz39M)が流れている。

「有権者諸君、私が外山恒一である」「私は諸君を軽蔑している。このくだらない国を、そのシステムを支えてきたのは諸君に他ならないからだ。正確に言えば、諸君の中の多数派は私の敵だ。私は、諸君の中の少数派に呼びかけている」「少数派の諸君、選挙で何かが変わると思ったら大間違いだ。所詮選挙なんか、多数派のお祭りにすぎない。我々少数派にとって、選挙ほど馬鹿馬鹿しいものは無い。多数決で決めれば、多数派が勝つに決まってるじゃないか」砂嵐に外山の輪郭「じゃぁどうして立候補してるのか?」

そこにストローでパックジュースを飲むようなズルズルという音が足されている。後にわかることだが、鬼ころしの小さい紙パックを飲んでいるマックが、車内で映像を見ているというていである。はげのジョークじみた必死の訴えにRPG風音楽が乗った、この二重構造の映像を何回も見ていると、正直涙が出てきた。アクト・オブ・キリング(2014)でも、重い内容の割にオープニングはスタイリッシュである。オープニングを格好いい映像にするというのは、近年のドキュメンタリーの定石であると思うが、今作ほど格好いいものは見た事がない。

テロップ『立候補したいなら、まず供託金300万円を払いたまえ。公職選挙法 第92条参照』
『もし一定の得票数に達しなければ没収するね。公職選挙法 第93、94条参照』

選挙のルールが提示される。基本的にこのドキュメントのベクトルは、なぜ泡沫候補は300万円を捨ててまで立候補するのか、というところにある。俺が彼らに引っかかってしまったのは、自主映画も高額の自腹を切らなければならないので、やっている事の意味がわからない人には不思議がられる。そこに共感した。

立候補者が、立候補しますという届け出をする小会議室。出陣式より前なので、オープニングの893じじいはこれの直後になる。マックは並んでいる椅子の端に座り、新聞と手書きの紙束を出している。紙には『そして最近、御堂筋を歩いていたら、マックはん、スマイルセラピーって何でっか?とよく聞かれます。まあ一言で言えば、、、』と書かれており、何かの文章を推敲しているメモである。使い終わったコピー用紙の裏面を再利用している。このカットだけで、金持ちのくせにケチだという事と、常に新聞で情報収集しながら片手では自分の事を考えているストイックさ、スマイルセラピーについては、ずぇってぇ聞かれてないじゃん、嘘じゃん、という詐欺師加減が現されている。

選挙管理委員会の面々が入ってくる。面々に向かって、マックは「おはようさん」と面倒臭さを演出。
『選挙管理委員会』のテロップは一コマ一コマ、人の動きをマスクして、動きを囲って、人物の後ろに表示される。
この、普通のドキュメントではまずされないようなテロップの編集がたびたび出てきて、今っぽい。今後十年後に見ると古く感じるかもしれない。
届け出をした候補者の名前が吊るされたホワイトボード、「戸並誠」と、マックの本名が吊るされている。
マックはつぶやく。「羽柴秀吉は来ないのか?」

物語は羽柴秀吉へ。
テロップ『青森県』。津軽三味線を演奏している舞台空間、舞い散る紙吹雪、青森出身の羽柴のプロフィールが流れる。プロフィールと紙吹雪はこれまた黒の部分を抜くエフェクトをかけ、ドキュメントらしくなくスタイリッシュに違和感を出している。紙吹雪レイヤーを抜いたまま羽柴の選挙事務所へ。今回、羽柴秀吉は出馬しない。
スタッフが出馬しない理由を説明する「検査を受けた結果が、肺にガンがでてきたんですよ」。なまっている。

病院の外観、呼吸器と心電図の音に合わせてテロップが追加される。『羽柴は肺がんで、入院している』。サウンドデザインがニクい。

マック達候補者の居る小会議室に戻る。会議室には時報が流れている。
秒単位の時間のテロップと共に、8時半の時報が鳴った瞬間、「はい終わり」マックがいらん事を言う。このタイミングでいちいち何か言う時点で、面倒臭さすごい。
「ただいまから、平成23年大阪府知事選挙における、立候補届け出の受付を開始してください」
届け出の順番を決めるため、おみくじスタイルの抽選をするマック「1番出ろ!、、3番」しゃべる間とか、リアクションも何も面白くない、ただただ面倒臭さだけが伝わってくる。
テロップ『候補者は全部で7人いる』

テロップ『昨夜』
小さな記者会見場、置かれたマイクに囲まれるマック、集まった記者とカメラ。マック「ご質問あれば、どんどん出してください」「じゃぁ経歴」
記者のやっつけ仕事感、緊張感のなさすごい。映画の構成としてもちょうどいいタイミングで、マックの素性が明かされる。マックは京大出身で、伊藤忠商事に25年勤務後、起業。スマイル党総裁、財団法人スマイルセラピー協会・会長。
「スマイル党 総裁です。党首はやめてください。総裁にしてください」こういう奴特有の、どうでもいいこだわり、自分にしか興味が無い感じがまたむかつく。
「協会の会員の人数は?」「公募してません。オープンにしてません。クローズです」「会員数は出してない?」「出してないです」痛いところをつめてくる記者。
「スマイルセラピーの会長と伊藤忠の間には何か職歴は?」「うん、それはマックコーポレーションという貿易会社を作りました。今は退任してるんで」
テロップ『マックはレアメタルの輸入で財を成した』

白布をバックに記者達がマックを写真撮影しているカットが挟まれる。ガラケーでマックを撮っている記者も居る。ガラケーからは「撮ったのかよ」とシャッター音。こういった、雑音のフリをしたSEを頻繁に使うあたりにも、編集の巧みさが伺える。

記者会見場に戻る。「スマイルセラピーというのを簡潔に?」「まずスマイルセラピーというのはスマイルをメイク!」メイクの瞬間、トーンが高くなってアクションを入れる。「することで、外見力を良くする。そして、心の持ち方をマイナスからプラス!」プラスの瞬間にアクション。「ネガティブからポジティブ!」ポジティブでアクション。「まぁ何だろうね、これ最近私感じているのはね、、、」ようはネガティブになっている皆を変えたいとのこと。アクションごとに本人は笑いを取りに行ったつもりだったのだろうが、記者は誰も笑ってない。ただ、そのアクションを写真に収めたいのか、変な動きをする度に『パシャパシャ』と、ツッコミ代わりのシャッター音だけが響くのだった。
マック「で、まぁ、新聞ある?さっきの?無いか。今までやっぱり私が国政選挙に出て、一番嫌だった事は」黒みにディゾルブ、別のシーンへ。

テロップ『立候補届出後』。語尾からして回想に入る感じの編集だったが、まさに回想のように「一番嫌だった事」が説明される。回想といっても過去には戻らず、先ほどの会見は昨夜、その回想が届出後の現在(会見から見たら未来)の時系列になっている。常識を無視した何とも見事な構成。
「選挙長どうも認定ありがとうございます。スマイル党総裁、マック赤坂です。一言だけ申し上げたいです」。マックが、席に着いている選挙管理委員会の前に立ち演説している。
「これ、今日の朝日新聞の朝刊です。同じ300万円の供託金を払いながら、主な候補とそれ以外の候補を分ける。これは、憲法第14条、並びに公職選挙法違反だと思います」「こういう不平等がまかり通れば、新しく出た新人が当選する事はありえません。どう思われますか?」「ちょっとここは」と、職員が割って入る。「わかりました」「そういう場じゃございませんので」「ぜひ、選挙長、特にメディアに対する公平な管理をお願い申し上げます。ありがとうございました。おおきに」去って行くマック。どんなややこしいことでも、大阪弁を最後に入れれば大丈夫と思っているようだ。無言で見つめる選挙管理委員会たちのリアクション。
テロップ『マックは3年前に朝日新聞を訴えて・・・』『・・・負けた』
ひそかに指を指して笑う選挙管理委員会たちのリアクション。はじめに新聞を読んでいたのは、情報収集ではなく抗議のためだった。
《P31より、本編では使用されてないが、記者会見でマックは「スクラップ・アンド・スクラップです」と言っている。ビジネス用語の「スクラップ・アンド・ビルド」のパロディである外山のやーつ》

大阪城を映した映像の前にアップのマックが現れる。
テロップ『第一声』
大阪城の前は大阪府庁になっている。「大阪府庁万歳!スマイル党マック赤坂が、挨拶代わりにスマイルダンスを踊ります。ほないこか〜」
VAN McCOYのthe hustle (75)を流してマラカスを揺らすマック。ただのゲリラである。曲に合わせて「たったったった」と歌うマック。「たたったたかじん」糞レベルのユーモアも忘れない。
《P30より、この後も度々マックが流すこの曲は「団塊の世代にはたまらなく懐かしい曲」との事だが、俺が思うにマックがこの曲をよく使う理由は、サントリー・プロテインウォーターの09年のCM、いわゆる「細マッチョ」のCMに使われていたからだと思う。今作では全く女っ気を見せないマックだが、実は見た目そのままの女好きなようで、P53より、今作にノーギャラで取材する代わりに、女を紹介しろ、と言ったり、P35より、スマイル美人というキャンペーンを勝手におこない、聴衆の中に美人が居ると櫻井にアドレスを書かせに行かせたりしている。つまりは細マッチョ(いい男)を象徴する曲、ハッスルを流して、男っぽさ、セクシーっぽさを演出したかったのではないかと。また、ドラマ・あまちゃんの作曲家の大友良英のブログより、「選挙であろうと作曲家の許可を得ずに曲を使えば著作権法に違反する」というカスラックの見解により、著作権の生きている曲を無許可で選挙で使用する事自体、うっすら違法のようだ》

ロールスロイスで、録音されたウグイス嬢の声を流しながら公道を巡回。そのままホテルの駐車場へ。ただの街宣車である。

ホテルの駐車場、街宣車の前で秘書の櫻井にインタビュー。「土日のバイトで入ったんですよ。職安でバイト探してたら、ロールスロイスの運転手、時給四千円って、それおもろいなって応募したら、三千円にしてくれんか、みたいな。いきなりかよみたいな。入ったら二千円に落ちて。社員が辞めてしもたんやね。私の前の専属のドライバーが。お金を使い込んで。その時に正社員になってくれへんか言われて、ここまで来たらしゃあないな思て」

大阪の大きな駅ビルの前のマックと櫻井。マック「スピーカー持ってこいよ」櫻井「鉄道会社の所有だったら入っちゃいけないんです」「でも地下だよ?」「どこの所有になってるかです」他人の土地でも地下ならOK!という発想。

駅の地下道に、腰掛けを置いて立っているマック。スピーカーからは大音量で場違いすぎる植木等のスーダラ節が流れ、その音量に白人親子が驚く。

「3人じゃないんですよ。ネットで3人しか出てない?」演説もせず一般人に絡むマック。相手はインテリ風の中国女。監督が中国女にインタビューすると「本当に公認ですか?って。調べたけど3人しか、4人目は居ないので。日本の選挙面白いなと思って。入ってないですよね?」
主な候補とそれ以外をわけることによって、『それ以外』は無い事にされるという、マックの恐れていた事がいよいよ起こってしまった。抗議してよかったね。

高級ホテルの一室で、パンツにTシャツのマック。《P52より、このホテルはリッツカールトン》
テロップ『政見放送』。
《P34より、政見放送の場での密着取材はマックから撮影NGが出たので、遠くから撮したが、失敗したので使ってない》

櫻井がテレビを点け、全画面でマックの政見放送が流れる。このホテル室内の雑音、テレビを点けるときの「パチン」という音などは、リアル感を出すためと、映像の切り替えのきっかけとして、編集時に録り足しているものと思われる。

「では、マック赤坂さんの政見放送です」全体でこのカットだけ、テレビの放送をそのまま使用している。
「スマイル党総裁、マック赤坂でございます。テレビの前のみなさん、スマイル!してまっか?マック赤坂は、東京にバイバイして、大阪に参りました。元々私はコテコテの関西人でおます。名古屋で生まれ、大学は京大、会社は大阪の伊藤忠、、、」関西人が一番腹立つであろう、皮肉とも取れるわざとらしい関西弁で始まる、名古屋出身の人の演説。最高の学歴と関西感を同時に出す画期的な自己紹介。
「御堂筋を歩いてましたら、トントン、マックはん、スマイルセラピーって何でっか?とよお聞かれます。スマイルセラピー、一言で言えば、スマイルを」
「メイク!」ホテルでテレビと同じアクションをするマック。変態的に上手い編集のタイミング。そして小会議室で始めにマックが紙に書いていたのは、政見放送の推敲だった。
《P66より、「変わった事をやらないと注目されないから、とんでもないスベった政見放送をやることで注目される」とマック、自分でも滑っている事は理解しているんだぜ、という開き直りがまたむかつく》
ホテルでマック「いい。痩せてるな」。この、自分の政見放送を見て出てくる「痩せてるな」というギャルみたいな感想。ハリウッド映画なんかで犯人が自分の映像をテレビで見て言うセリフのような、サイコパス特有のやつである。「都知事のときよりよっぽど痩せてます。顔につやがあります」櫻井も合わせる。
テレビ画面風に加工された政見放送「10度、20度、30度!この30度の時に歯を出して、、、」。
ホテルマック「俺が見ても面白いんだから、面白いだろうね」。全く面白くない。「このスマイルセラピーを大阪中に広めるために、マック赤坂は立ち上がりました。コマネチ!」。ホテルマック「壊したいんだよ俺は。90点あるだろ。90はあるよこれ」自己評価の高い赤坂。
《P65より、監督は、(マックには伝えてないが)今回の政見放送は以前とほぼ同じだったため笑えなかったとのこと》

ノーパソでTwitterをチェックする櫻井。マック「結構東京のやつが見てるね。何で見てるんだろう」「いや、Twitterやから。沸いてるから何やろって」「外山恒一をこれ、超えたんじゃないの、もう」
そういえばさっきのめっちゃムカついたマックのつぶやき「壊したいんだよ俺は」は、明らか外山恒一を意識している。何なら気付かないうちに自分の中に入れて、心の中の外山がささやいている。
《REALTOKYOのインタビューより、マックは以前は普通の政見放送をしていたが、外山の政見放送を見てから、こういうふざけたような政見放送に変えたとのこと。なんと単純で影響を受けやすくて実力不足なのだろうか》

テレビの砂嵐ノイズに外山の輪郭が一瞬差し込まれる。ノイズ風に浮かぶテロップ『博多』。バッチリな音量とタイミングのノイズ音。博多の街の風景に浮かび上がる、警察庁の電子看板。もちろん外山のパートへ。
「外山恒一にやけっぱちの一票を。じゃなきゃ投票なんか行くな。どうせ選挙なんかじゃ何も変わらないんだよ」オープニングのロールスで流れていた選挙演説である。昔のビデオカメラ風に、撮られた日付のテロップが乗っている。
バーカウンターに座っている外山「あれは完璧でしたね。自分でも思いますけどね。内容的には、前から思っていたことをざっとまとめただけで当然当選するつもりは無い訳ですよね」
テロップ『外山の政見放送は、YouTubeで140万回再生された』
「どっちかって言うと、僕の選挙のメインは、政見放送よりも、選挙期間中、毎日、高円寺の前の広場に集まれって言うのがメインだったんですよね。政見放送流れたとたんに、相変わらず一人、二人しか来ないんだけども、遠巻きに観察している人々が居るっていうのは何となくわかったんですよね」「最後の金土日は2、300人集まってましたね」当時の高円寺の映像。政見放送が海外のバンドのライブにて使用されている映像。
「基本的にはネットに対してすごい否定的なんですよね。ネットが広まったおかげで何も起きなくなってるという気はしますね。うーん。全てがネタ化してしまうというか」

相変わらずネットに毒されTwitterを見つめるマックと櫻井。「クリック数、どんだけ伸びたかもっかい見てみましょう。どんどん伸びて行きますね」「Twitterやってて」外山に比べて、こいつらの、ただの自己顕示欲だけの行動に、レベルひきぃなぁとなる。
テロップ『マックの政見放送は、この選挙期間中に40万回再生された』

テロップ『政見放送後』『梅田地下街』
立ち飲み屋でビールと串カツをつまむマック。ちなみにこの店は、今年立ち退きした『松葉』である。今度はラッシュ時の地下道で棒立ち。植木等のゴマスリ行進曲を流す。マックが10代の頃から十年続いた「クレージー映画」(クレージーキャッツ主演の映画)の挿入歌の一曲である。このひねり無き時代錯誤な選曲がまたムカつく。音楽に合わせマラカスを振るマック。糞中学生が「いいぞ!もっとやっとけ!」とはやし立てる。マックを差し置いて一番むかつくシーン。
「浪速の皆さん、ゴマをすってすってすりまくりましょう!」植木等のメッセージを何も加工せず通行人に発表するマック。地下街の大阪人にインタビュー「この前見たんですよ政見放送。ど肝抜かれました。本人は真剣ちゃいます?」。きゃつの寒さは大阪では受け入れられていた。
《P93より、聴衆へのインタビューで、音楽活動をしているという人が「(マックは)供託金を払って、国をライブ会場にしてるんじゃないかと思います」と言っている。いいように見ればそういう見方もできる》

映画はそれぞれの泡沫候補へ。おみくじスタイルの届け出の映像へ戻る。「岸田候補は4番」
テロップ『④岸田修』テロップはカメラ前を通行人が横切った瞬間、選挙看板の実写にモーフィング。
岸田の家の柵の前で、岸田にインタビューしている。ここは劇場版では何の加工も無かったが、DVD版では岸田の顔にモザイクがかかり、声もニュースの犯罪者風になっている。
「岸田さん、選挙活動、どこか演説とかされたりするんですか?」「そんなん行って、何か、せえへんよ。届け出までやけどな」「届け出だけで、選挙活動はしないんですか?」「お金いるやん。あんなん。ポスターとか板とか。使うたら人間見返り求めるしな。百円、千円使うても見返り求めるやろ?」
岸田は『活動=金を消費』したら、受かるのではないかという欲望が出てしまうので、それを封じ込めるために活動しない、キリストスタイルで立候補していた。見返りの話から、利権構造など、政治らしいことに論点をずらした。
《P24より、岸田は最初の届け出の時点で、カメラの回ってないところで、撮影交渉に「いや俺はええわ。映画とかええわ」と拒否っていた》
「お一人で住まれてるんですか?」「プライバシーの事はええやん。あんたもプライバシーの事言われたらええ事も悪い事もあるやろ」自分の家の植栽の枝をむしり始めた。「皆お互い持ってるやんかなぁ。プライバシー持ってるやん」監督とは別のカメラマンにも話かけ、むしった枝を更に手で刻み始めた。完璧なコミュ症スタイルだ。
テロップ『岸田は、だいたい家にいた』
ある意味一番アナーキストだ。
《P106より、嫌がる岸田のインタビューを撮ったのは、『泡沫候補の中の泡沫候補』を作らないようにするため》

地下街のマックへ。かなりの人が集まっている。演説をしているところに警備員がやってきて櫻井に話しかける「ここでやる場合届けが居るんですが。来ていただけますか」「もう終わります」「ちょっと来てください。ここでこういう事やったっていう、残しとかなあかんから」マックが気付く。マイク越しに「何ですかあなたは?マイクでしゃべってください、私に文句があるんだったら。マック赤坂ですよ」事務室に連れて行かれる櫻井。残されたマック「色んな人が来るよ。警察とかな。体制に併合する男ではない!」一人だけ拍手する。マックはやはり、自分より22歳下のアナーキスト・外山に憧れているだけではないだろうか。
《P92より、マックはその他の街頭演説でも「(自分の政見放送は)外山をこえた」と言っており、どんだけ気にしてんだよと》

戻ってくる櫻井「怒鳴ってきました。邪魔すんなと」
テロップ『マックは公職選挙法に守られていた』
公職選挙法に守られているマック。正直全編この映画は、マックが『公職選挙法』の範囲内でめちゃくちゃするだけの映像が続く。そして撮影隊も、公職選挙法に守られているマックに密着しているだけなので、『公職選挙法』の下、ゲリラで撮影しているようだ。
《P94より、櫻井がすぐに戻ってきた事を不思議に思った監督が、後日管理会社に聞いたところ、この場所は各社が所有している土地のちょうど真ん中に位置しており、誰の敷地なのかはっきりしてない、エアーポケットのような場所だったとのこと》

櫻井に500円借りて立ち飲み屋・松葉に戻るマック。車に戻る櫻井、生まれたばかりの子供が難病に侵されている話を始める。「多分一歳まで生きへん。保育器の中で一生終わりちゃうか」。病院で、呼吸器に繋がった赤ん坊を抱く櫻井の映像。
テロップ『櫻井は家族も支えていた』
ここで初めて選挙以外の話が出てくる。

映像はおみくじへ戻る。このおみくじ映像をスイッチに、他の泡沫候補三人につないで行く構成のようだ。
「中村候補は2番です」
日本維新会・中村勝と書かれたワゴン車。中村の小学生の娘が車の字を読む「府知事候補。中村勝。日本維新会」。
テロップ『中村勝(60)』
駅前でインタビューを受ける中村「僕は事情がありましてね。小さい子供を私一人で育ててます」「奥さんは?」「子供が生まれたときに、産後の肥立ちが悪くて亡くなりました」
マック以外は重いストーリーを抱える候補者。公園で遊ぶ中村親子「お父さんに投票が何票あるか楽しみ」。中村「10万票入るよ」「前は550票やった」
歩行者が一人も居ない公道の、更に車の陰の縁石側で演説する中村。何を恐れているのだろうか。

駅前の中村インタビューへ戻る「私は組織が無いんだからね。なかなか難しいとは思いますよ」
組織が無いという事は、この良き父が掲げる『日本維新会』とは、「おんなじやおんなじや思てー!」でおなじみ野々村の『西宮維新の会』と同じく、有権者が『大阪維新の会』と間違えるように狙って付けた名前であった。地味なクズ。
「ただ私自身としてはね、有力3候補をのぞいて、7人のうち4番目に入りたい。ただマック赤坂さんが居てはるから、、、」
テロップ『中村は娘が一番、狙うは四番だった』

青空と、鳥の群がるアンテナ。飛び立った鳥の大群の影が映る高架下に居る、ホームレス。
テロップ『あいりん地区』
カメラは、まさかの日本唯一のスラム・あいりん地区に入り、インタビューを行っていた。
《P175より、監督があいりん地区に行ったのは、この後に出てくる、京都で暴れるマックに感化されての行動とのこと。撮影に際しては、今回はA3の紙を首からぶら下げたり、大きなカメラで三脚を肩から担いだり、「報道」と書かれた腕章を付けたり、虚勢を張る事で、危険を回避した》

「知事選挙、誰に投票するか聞いてるんですけど」「わからない。持ってないもんそんなもん」「でけへん。住所抹消されてな」「俺、選挙権ねぇ」「選挙権無い人けっこうおるから」

おみくじへ戻る。「高橋候補は7番」
テロップ『高橋正明』
いよいよ最後の泡沫候補。なんば駅前・南海通商店街アーケードの前で選挙活動中の高橋にインタビュー「もうほとんどしてないね。選挙公報と政見放送だけ」。言いながら道行く人に手を振る「地道にいきたいねん」
スクランブル交差点の前で、反応無き道行く人にひたすら「よろしく。こんちわ」と頭を下げていると、老人が話しかけてくる「あの、灘小、灘中、一学年下の村松です」「わー懐かしいなぁ」盛り上がるエリート軍団。てかマックもこいつも関西最高の学歴だった。
去って行く後輩。
「やったー!こういう事があるからね。300万円の値打ちあるやろ?普通こんなんしてないと、会えへんもん」フェイスブックとか知らないんだろうか。知らないんだろう。
テロップ『高橋は、だいたい挨拶をしていた』
《P98より、監督と制作は高橋家に交渉に行くため、生い茂った草を掻き分けて古い一軒家にたどり着いたが、不在だった。ポストに名刺を入れたところ、後日連絡がきた。このエピソードを読んで、俺はすぐに自分のふざけた名刺を作り替えた》

あいりん地区インタビューへ戻る「無責任に投票する訳にはいかんわ」「羽柴秀吉さんとかいう人出てないね?」

アーケード前の高橋にインタビュー「羽柴秀吉さんご存知?」「はい、割と仲ええっちゅうか。僕はあの人は何か持ってはると思う」

テロップ『六ヶ月後』テロップは飛行機の窓の水滴にまみれ、見た事無い様な加工で消えて行き、羽柴パートへ。
テロップ『青森』『羽柴居城』。さっきから皆が噂する羽柴秀吉は、なんと城に住んでいた。
テロップ『羽柴秀吉(63)』
軍服風上下をまとって乱雑な社長室に立っている羽柴。座ってインタビュー。
「結局戦いですから。宝くじと同じで、買わないうちは当たりも外れもないし」「出るたびに人気上がっていくし」「選挙は地盤(支持基盤)・看板(知名度)・鞄(金)というけども、鞄だけあって、地盤も看板も無ぇんだでば」。羽柴は国会議事堂を模したホテルも経営していて、マックより一歳下で中卒ながら、金はマックより持っているだろう。
「一発目大阪府知事やったときは、鎧兜を着て、府庁の前で街頭演説から始まったんですよ」「話題に上らないと、じゃぁ入れてみようかという話もねんだでば」
写真立てには、菅直人と争った時の秀吉。鎧フル装備の秀吉。銃を構えた秀吉。この人たちは自分に欠けている、『地盤』と『看板』を追い求めているだけなのか。

城門に入って行く大きなトラック。
テロップ『羽柴は、青函トンネルの土を運んで財をなした』『羽柴はガンを完治させて、次の選挙で当選を目指していた』。尚、羽柴は今年4月に亡くなられた。

テロップ『後半戦』。映画は折り返し地点へ。他の泡沫候補たちの紹介は終了。

大阪地下道。相変わらず「あんた喋って」と、今度は通行人とケンカ中のマック。なぜクレーマーに対して自分と同じ舞台に立たせようとすんのか、その理屈はよくわからない。
クレーマーの酔っぱらいじじい、俺は撮すなとカメラを押さえるも、インタビューは答えてはくれる「主張をせずに音楽だけ流してな。そんなもんお前らの主張かと。そんなもん違うやないかと。こんな大事な時にな」
正論を述べる酔っぱらいと、ピンクのタンクトップに短パン、天使の輪っかの飾りを付けたマック。
「日本という国を世界に売り込む。今の民主党ができるか?」
また今度は酔っ払いに影響されて真面目な演説をするマック。足を止めている通行人は居なくなる
「誰も聞いてないから。良いことしだしたら皆聞かなくなる。歌を歌いだしたら皆聞くんだよな」
鬼殺しを飲み、歌い、踊り、通常営業に戻るマック。間の抜けたアコーディオンのBGMが流れる。
黒人の太ったおばさんが口を開けて見つめている「彼は知事候補?いつもあんな格好でやってるの?」
このリアクションする人選の絶妙さも、この映画の醍醐味だろう。
大阪の名所を櫻井と回って演説するマック。また道中で酔っぱらいにはたかれる、「終わり!」怒って去るマック。

テロップ『東京』『戸並健太郎』『現在、マックの会社は一人息子の彼が経営している』
オフィスに座っている息子へインタビュー「ここの会社でみなさん、スマイルダンスするんですか?」「しないですね。スマイルしてればいいだけの世界ではないですね。貿易は」「選挙活動とかは手伝われたりするんですか?」「してないです」切り捨てる息子。

大阪のマック「加藤鷹です」。この映画中、唯一マックが言った面白い言葉。

東京の息子「仮に本人の道楽だとしたら、私自身が幻滅しますよね」
《P168より、「(息子が歩いていると、演説中のマックに偶然道で鉢合わせて)『おーい』と声をかけられたこもありましたけど、無視しましたね」「本人も葛藤していると思うんですよ。どういう方向性でいったら良いだろうかと」と息子。カットされているが、問題提起として、これらは入っていた方がよかったのではないかと思う》

大阪、ロールス。テロップ『大阪維新の会 選挙事務所』。
車内でたすきを掛けるマック、車は維新の事務所前で停まる。車を降り、維新の事務所に入る「激励に上がったんですけど」。「マック赤坂だ」と維新スタッフ。
カメラは、維新スタッフに手で隠される。口々に「よその事務所やでここ」「それはあかんやろ」「それはちょっと待ってくれ」「止めてください。止めてください」
初めて普通に怒られる監督。
《P127より、この時手が震えたので、カメラがブレないよう脇を締めた。異常に撮影拒否していたのは『為書き(誰から誰への、頑張ってくださいというメッセージ)』を映されたくなかったからではないかとのこと》

梅田、夜、観覧車周辺の人ごみと重低音のBGM。
車内のマック「京大が唯一の楽しみだね。どういう反応するか?彼らがYouTube見て」
哀愁漂うカットと思いきや、見事にフリであった。

文化祭が行われている京大の前に乗り付けるロールス。
テロップ『京都大学 ※選挙区域外』
《P128より、京大生は大阪から通っている生徒が多いので、一応大阪の有権者を意識している》

マック「やるよ。やる。警察呼べ!」「はい?」「警察を呼べ!」「それは的違いだと思います」デブメガネの女学生と全力で揉めているマック。デブメガネも焦って的外れを的違いと表現。「警察を呼べ!」とは、ドキュメンタリー・ゆきゆきて、神軍(1987)でも、主演の奥崎が揉めたときによく発する、暴れん坊の常套句である。デブ「ここ学祭なんです。学生の活動の場なんです。お願いです。楽しんでもらう分には構わないですけども、やめてください」
演説の準備をしながら櫻井が出てくる「それ、あんま言うたら選挙違反になるよあんた」。マック「あなた名前を言え。公職選挙法違反になる」「そんなん言うのやめてください。道を塞ぐ事は問題ないんですか?」。櫻井「無いよ。選挙違反にならへんもん」。マック「あなた、就職できなくなるぞ!」。櫻井「すぐ終わるから」「何分で終わりますか?」。櫻井「そんな事言うたら余計」。マック「永遠にやるよ!」
日が暮れるまで校門前でウグイス嬢の録音を流すロールス「朝起きてスマイル。昼はランチでスマイル。夜はデートでスマイル。学校で先生にスマイル」。
テロップ『学校近くの選挙演説はお静かに! ※公職選挙法150条2参照』
ついにこいつらの最低な部分が出ちまった。
《P130より、マックと一行は、校門で揉める前に、校舎内にも入って接待も受けていたが、生徒の意向もありカットしている》

テロップ『京都河原町 ※選挙区域外』
京大で調子に乗ったキャツラは京都の繁華街へ。早速職質を受ける二人。櫻井「許可って、知事選はどこでやってもええやろ。警察なのにそんなことも知らんの?あんたら選挙違反になるよ」
上下ピンクにファーの帽子と耳当て。何をしていてもダメであろうマック「大阪府知事選の立候補者って知らんのか?マック赤坂のこと。それ自体おかしいやろ」ニヤリとするマック。怒鳴りまくった後に笑いかけるという洗脳の常套手段を使う教祖様。去って行く警官。
《P153より、学生のような弱者にも強く、警察のような強者にも強いマックを、監督は、巨神兵みたいだと表現》

横断歩道前で腰掛けに立ち「前から京都府警はあほの塊や」とマック。またも植木等の、「無責任一代男」を流す。
両手のタンバリンを道の端にぶん投げるマック。「ありゃりゃ」取りに行き、マックに渡す櫻井。偶然にもウェス・アンダーソンの映画、ライフ・アクアティック(2004)で同じシーンがある。ウェスもこいつらもどちらもすごい。
赤信号の横断歩道を渡り、車の前でダンスし、クラクションを鳴らされる。更に車が交差する中心に立ち、交通誘導員を真似て誘導棒を持って、道の真ん中でめちゃくちゃに踊るマック。
《P156より、交差点では30分間踊ってた》

ロールスの近くに戻ると偶然警察のバスが。そこにも絡もうとするマックに、ついに「お父さん危ない」。そう話しかけてきたのは京都府公安だった。ラスボスが現れてしまった「お父さん免許証は?」無視して後部座席に入るマック。段田安則風の公安は、今度は櫻井に「免許証だけ見さしてもらいます?」「何で免許証見せなあかんねん?」「あ?何?」警察がごく稀に見せてくれる全力の「あ?」を出してきた。やべえ。だが全く引かず「選挙演説やで?もう終わったんやからええやろ」といつもの言い分で去って行くロールス。あきれた顔で見送る公安。
テロップ『選挙演説に地域制限はない ※公職選挙法 該当箇所なし』
《P159より、公安が免許を出させようとしたのは、免許を持っていれば道交法を理解している人の悪質な危険行為となり、道交法でパクれるからではないかとのこと》

そして同じ場所にアンチ橋下のデモ隊がくる。こっちは何しても大丈夫だ。
《P160より、デモ隊のカットを入れた理由は、権力のルールに従って権力への反抗を行う人たちへの皮肉として》

東京。息子「何で真面目に政策を訴えてやらないんだと」。

テロップ『最終決戦』『難波』
夜。橋下の選挙カーの周りに、維新を応援する有権者たちが集まっている。維新の会からは、松井は知事として、橋下は市長としてW出馬。録音ではない生のウグイス嬢と、業務用トラックか何かをガラス張りに改造した豪華な選挙カー。取り巻く有権者「マック帰れ!」
マックはロールスのルーフから、京都と同じ格好で誘導棒とタンバリンを振り回して叫ぶ「橋下ー!」。
《P184より、マックがメジャー候補の演説に乱入するのは初めてではなく、以前、石原元都知事の演説する壇上にも上がろうとした。だがSPに止められ失敗。以降、ロールスで場所を占拠する方法に変えた》

ロールスの周りにはヒゲのガタイのいい維新のSPが集まっている「18時45分から」。櫻井「何の圧力?」。SP「いや別に、話のタネです」。ここらへんは音は録れておらず、テロップで補っている。
選挙シーズンになると駅を出てすぐとかにも居るが、大きな党のSPの怖さは異常である。ただの893やんである。池上彰の選挙特番で、池上と女子アナが公明党の事務所に行ったとき、近くの創価の施設に居たSPもやべかった。池上は女子アナを使って「何してるんですか?」と電波少年のごとくSPに話しかけさせていた。「答えられません」と返されていた。
《P187より、SPは「公職選挙法違反になるので中止しろ」と直接言えないので圧力をかけていた》

マックはいつものルールを振りかざす「公職選挙法違反はそっちの方だろ?弁護士はいるかー?」
SPは橋下の選挙カーを指差し「弁護士」。この素早い返しはさすが大阪。
維新選挙カーの上にはタートルネックに白スーツの橋下が。マック「橋下さん、あなたは弁護士だったら、このマック赤坂の、この意見がわかるはずだ。5分でもいいから演説をさせてもらいたい。お願いします」すぐにSPの「弁護士」の影響を受けるマック。尿取りパッド並の吸収力。「橋下!好きだお前!」必死にユーモア感出そうとして、逆に哀愁を漂わすマック。
完全に無視して演説する松井だが、一旦止める「あの、マックさん、お話されるんなら時間を決めてやりませんか」。
マック「橋下さんの意見を聞かせて欲しい」。橋下は答えず。松井「やってください10分ぐらい。どうぞ。ちょっと皆さん待ってください。マックさん喋るらしいですから」。
《P200より、後に松井知事は会見にて、マックに演説を許したのは、有権者に維新の政策と比較してもらうため、と話した》

見物人の輩が登場「おい!パクったれあんなん!」。言ったそばから掴まれるも、SPから「わかるわかる」と、掴まれつつ共感される輩。
何の中身も無い事を数分喋るマック、「帰れ」のシュプレヒコールが始まるが、逆切れするでもなく、どうでも良い事を喋り続ける。

無意味な演説が終わり、橋下「マックさん、10度20度やってくださいよ」。「ちょっと聞こえないんですよ」耳当てが仇になった。「10度20度30度やってって」SPから言われ即答マック「10度!20度!30度!橋下さんありがとう。あんた心が広いよ」。見物人からは「徹先生いいぞー」。やばい橋下完全にカッコいい。マックは「どうぞ、もう黙ってるんで」。

テロップ『選挙終了後』
櫻井秘書が百合ヶ丘の難病患者を受け入れることのできる病院、聖マリアンナ医科大学の外のベンチに、嫁と長男を連れて座って居る。インタビューを受ける「あの時櫻井さん、すごい笑ってたんですよね。あれはどういう気持ちで?」「あそこに集まってた人っていうのは、ある意味全部敵ですよね。橋下陣営に乗り込んで、アウェイですよね。あんなところで真剣になっても仕方ないんで、笑ってる方が、不気味なのかなというのもありましたよね」。とは言いつつ、自分の心を守るための幼児退行的な反応だろう。
「ユウヤくん、マックさんどうだった?」「きもい」。上手くオチた。

テロップ『一年後』
橋下の市長記者会見。監督が当時の事を振り返り、橋下に質問を投げかける「『マックさん、10度20度やってくださいよ』って言われたんですよ。あれは何で言われたんですか?」「いやそういう風になだめないと、あの場が収まらないから。えぇ」。在特会以外には負け知らずの、論破の天才は無表情で答える。

ディゾルブで、あの夜の「10度20度30度!」がかぶる。

百合ヶ丘の櫻井「息子はまだ娘には会ってないんですよ。子供はNICU(新生児集中治療管理室)には入れないってことで」。そこに竜巻のような強風が吹き荒れる。吹き上がった落ち葉をジャンプして掴もうとする息子。
《P141より、このシーンは、櫻井長男が吹き上がった落ち葉を掴もうとするのと同じく、マックも
、『目の前に落ちてきたものを掴みたい』という、自然に沸き上がる人間の本性からもがいているのではないか、という意味で入れている。これと難病長女のエピソードを入れるかについて、試写の段階で揉めていたが、最終的には残した》

維新の夜。橋下と松井の演説を、鬼殺しを飲みながら、諦めと憧れの表情で子供のように見つめるマック。ピアノのBGMが大きくなる。突然マックは動き出し、橋下の選挙カーに近づこうとするも、当然「しつこいねん」「どっか行き」とSP。それでも振り切り、選挙カーへ近づく。選挙カーは内側からカーテンを閉められる。

漫画喫茶か何かのテレビ画面に、万歳する維新の会の連中がボヤけて見える。
黒みにゲームのようなフォントで、結果が表示される。勝者はもちろん松井。なぜかマジギレ岸田が4位、マックは最下位。

テロップ『敗北の行方』。選挙看板にテロップ『第四位 岸田修』。
「覚えてます?」「映画する言うてたやつ」「お久しぶりです」以前取材した柵の前でインタビュー。握手しようと手を出すが拒否される。「もうええよ。話にならん。止めてや。警察言うで。嫌や言うてんねんから」
テロップ『岸田は今後の立候補と、一切の取材を拒絶した』

テロップ『第五位 高橋正明』
仏壇のろうそくに火を灯す。自宅の座敷に座ってインタビューしている「当落も超えて、生死も超えて生きたいね。面白いお父ちゃんやったなって言ってもらえたらええね」
この人に関しては、大体自分の事しか考えてない。 
テロップ『高橋は、また立候補するかもねと言った』
300万円分遺産を遺した方がまだ娘も喜ぶんではないか。
《P113より、高橋は選挙公報に「石川に咲くすみれのような志」という謎の詩を書いている。これは、初恋でフラれた思い出と選挙を重ね合わせたものらしく、本当自分にしか興味ないおじいちゃんだ》 

テロップ『第六位 中村勝』
公園でインタビューしている。
テロップ『中村は、衆院選でも落選した』

テロップ『2012年12月15日』『息子 戸並健太郎』『秋葉原』
映画はまだ8分残っている。まだこの映画が回収しきれてない問題があった。息子である。
夜の秋葉原駅前に乗り付けたロールス。懲りずに自民軍団の演説に乗り込んでいた。トナカイの被り物をした櫻井、息子も来ている。早速自民のSPに怒られている。国旗を持った右翼気味の有権者たちが詰めかけている「マック帰れー」。SP「マックさん、聞こえないフリしたってダメなんだよ。選挙妨害で訴えますよ」 。

「邪魔だよお前。帰れ」聴衆である。「お前が帰れコラ!」突然聴衆に反抗し始めた息子である。「わっはっはっは」突然、ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(2007)の主人公のように高笑いのマック。ちなみにゼア・ウィル・ビー・ブラッドの主人公と今作のマックは、息子との確執や女関係が全く出てこない部分でも、キャラクターが似ている。
「お前ら集団だからできるんやろが。あ?お前が何か言うことあるんやったら、ここ乗ってやれや」と息子。『前に出てきてやれ』、なぜかこの親子、同じ理論使ってくる。 

マック「おもろいなぁ人生は」、このセリフ『壊したいんだよ俺は』以上に腹立つ。聴衆「恥ずかしいわお前らが候補者なんてよ」。息子「一人で戦っとんねん」。 

会社のインタビューの息子がディゾルブ「『お金をかけて票が伸びた』というよりは、一人で真面目な姿を見せて、ようやくわかってもらって勝ったと。これが見たい気はしますね」。

格闘技のあおりMCのようなナレーションに乗って奴が登場。テロップ『安倍晋三(58)』。総理である。
テロップ『最下位 マック赤坂』。まだ順位発表が続いていた。
聴衆はマックに「帰れ!帰れ!」「ゴミ!ゴミ!」「誰も入れねぇからな」と、中指を立てている人も居る。
テロップ『マックは、新潟県知事と東京都知事で落選した』
「売国奴!売国奴!」中指を立てていた奴が叫ぶ「売国奴ー!」そのままエンディング曲のラップへ。さよなら人類の「ついたー!」か。

おじぎする高橋。娘と手をつなぐ中村。地下街で演説しているマック。チラシを配っている櫻井。そのチラシを読む有権者、否、何と、そのチラシを眺めているのは岸田だった。最後の最後に黒幕のように現れる岸田。未熟児の妹と対面する櫻井の息子。ロールスのルーフで、定点カメラに微笑むマック。
車から映した道の流れる映像にエンドロール。

以上である。

この流れでマックを見ると、すごく応援したくなる魅力的な人物に見えてしまうから不思議だ。だがやはりそれは映画の力なのであって、冷静に見ると本人は、演説も言動も糞つまらない、何で立候補しているのかもはっきりとはわからず、目立ちたいだけに見える、顔も髪型も気持ち悪いただのおっさんである。
万年すべりっぱのマックが人生で一番面白かったと思われる瞬間は、TBSの「水曜日のダウンタウン」などの藤井健太郎氏が演出・プロデュースしている「キスマイフェイク」の「マック赤坂の政見放送の偽物を見破れ」という企画の、偽物の方の政見放送だと思う。甲冑を着て演説している最中、たまに甲冑の顔の部分がカチャンと、フルフェイスで隠れてしまうというもの(https://www.youtube.com/watch?v=xBwvTEY_7lM)。この、現状テレビ界で一番面白い人や藤岡監督の支えありきで、ようやく活かせる素材がマックなのであって、それ以外は「触るな危険」といったような、デンゼル・ワシントンのような男だろう。

なぜ、今作でマックは魅力的に見えるのか。それはおそらくこの、編集によって作られた、人を共感させてしまう映画的な構成のせいである(ただ、『めちゃくちゃだけど知的な面がある』という、高学歴実業家のマックのキャラも、映画的要素に一役買っていると思われる)。今作はドキュメンタリーだが、非常にフィクションよりな、ハリウッド的構成(評論家の町山智浩氏曰く、ハリウッド的な構成というのは世界中で昔から使われている構成だが、未だにハリウッドだけが使い続けている構成)を使用しているからである。

ハリウッド的な構成とは、一番大きく見ると三幕構成を指す。三幕構成の中のどのあたり、何分ごろに何を起こすかを『効果的な枠組み』として決めているのが、ハリウッド的な構成の特徴である。いつ何を起こすか、主な要素を構成順に並べると、
○一幕(設定)
1.ビジュアルフック
2.エモーショナルフック
3.プレミス
4.セットアップ
5.セントラル・クエスチョン
6.インサイティング・インシデント
7.プロットポイント1

○二幕(対立)
8.ピンチ1
9.ミッドポイント
10.ピンチ2
11.プロットポイント2

○三幕(解決)
12.クライマックス
13.レゾリューション
14.エンディング

○その他
15.サブプロット
16.外的目標
17.内的目標
18.敵対者
19.指導者
20.モチーフ

などである(人によって色々解釈あり・主にWikipediaより)。ドキュメンタリーのくせにこれらを周到している今作、どの部分がどの要素か、それがどういう効果をもたらすのかを、確認する。

まずは三幕構成であるが、全編を四等分して中二つをくっつけ、三つに分けて三部作の話にするという構成。
100分の作品なので、一幕は始め〜政見放送が終わる25分、二幕は政見放送の反応をネットで見始める26分〜息子のインタビューが終わる71分、三幕は橋下が登場する72分からラスト、といったところだろう。

今作の場合、第一幕の『設定』では、893じじい、投票所で選択肢のテロップ、ロールスの外山の政見放送、供託金のテロップ、届け出(集まり始め)、羽柴スタッフインタビュー、届け出(抽選)、記者会見前半(自己紹介)、写真撮影、記者会見後半(新聞)、届け出(管理委員会への抗議)、府庁前でダンス、櫻井インタビュー(正社員になった話)、駅前、駅地下の中国女、ホテル、政見放送、の順番で構成される。

一幕の中に入れるべき要素は、まず『1.ビジュアルフック』、これはハリウッド大作なら、何らかの事故や事件であったり、目の注意を引っ掛ける派手な映像を冒頭に置く。今作では「ガナる893じじい」だろう。

続いて冒頭で心理的な引っ掛けをする『2.エモーショナルフック』。これはじじいをひっぱりつつ、投票所で出るクイズ風テロップの選択肢(1.家の中でグチる。2.家の外でガナる。3.投票へ行く。4.立候補する。5.革命を起こす)、そこから浮かび上がる『立候補』のテロップ。クイズで心にわだかまりを残し、そのままタイトルとなる。

ここまではわかりやすいが、次は注意深く見なければならない。次の『3.プレミス』とは『テーマとは別に、冒頭に提示されるちょっとした疑問』であり、残りの時間はその疑問の解決にもなっているような、大きめの疑問でなければならない。冒頭で出る問いかけとは何か?上記のテロップの選択肢も問いかけだが、『4.立候補する』という答えはすぐに出ている。ここでの問いかけは、ロールスの中で流れる、切り刻まれた外山の政見放送だろう。外山はそもそも選挙自体意味が無いと否定した後、最後にノイズの中で「じゃぁどうして立候補してるのか?」と画面に向かって問いかける。これだろう。外山の本来の政見放送では、この後に「その話は長くなるから、掲示板のポスターを見てくれ」と繋がるが、そこで切る事によって疑問形で終わらせて、大阪のシーンへ入るのだった。
全体のテーマとしては、『立候補するという行為とは?』、『泡沫候補とは何か?』といったような事であり、『3.プレミス』の『どうして立候補してるのか?』という問いかけとは少し違う。『3.プレミス』の回答は『自分のため』といったような所であろうか。

続いて『4.セットアップ』、これは開始から10〜15分までに、誰が何をする物語かという事を提示しなければならないというルール。100分の作品である事を考えると、セットアップの時間は開始から8〜12分までとなり、誰が何をする物語かというと、もちろん『マックが選挙で当選するために奮闘する物語』である。途中、羽柴のスタッフのシーンが入るので長引くが、『4.セットアップ』は、13分に終わる記者会見前半の自己紹介にもなっているシーンまでだろう。セットアップの中に羽柴のシーンを入れる事により、この映画はマックだけを追いかけるものではなく、『泡沫候補』を追いかけているドキュメンタリーである事も現している。
なぜ記者会見は、前半と後半に分かれ、途中で「撮ったのかよ」のガラケーシャッター音が流れる写真撮影シーンが入るのか?それは、『5.セントラル・クエスチョン』及び前述の『4.セットアップ』と、『6.インサイティング・インシデント』を区切るためと思われる。

『5.セントラル・クエスチョン』は、セットアップの15分(今作では13分)の最後に提示される、映画全体で解決しなければならない中心の問題。問題とは、『マックは当選できるか?』。その後の記者会見後半には、記者会見前半と違い、とある事件『6.インサイティング・インシデント』が表明される。
とある事件、その前に『6.インサイティング・インシデント』とは何か?『日常が壊れるきっかけ、プロットポント1につながるきっかけ』である。
マックにとっての、この戦いの日常とは『同額の供託金を払ったのだから、平等な状態で戦う事』である。それを強調するのが、記者会見後半の後に続く届け出の際に、いちいちキレた「同じ300万円の供託金を払いながら、主な候補とそれ以外の候補を分ける。これは、憲法第14条、並びに公職選挙法違反だと思います」という言葉である。平等であるべきものを公的なものに裏切られてしまうという事件、知名度が無い新人は当選できないというカセ(障害)。そしてそのカセを決定づける、インテリ中国女の「(候補に)入ってないですよね?」というセリフ。これが『6.インサイティング・インシデント』であろう。中国女の映像はかなり粗くクオリティが低いが、それでも使用している事が、中国女の「入ってないですよね?」のセリフの重要性を物語っている。事件は既に起こってしまった事であり、この事件自体を解決する事はできないが、『6.インサイティング・インシデント』きっかけで、本当のストーリーが始まる『プロットポイント1』に繋がる。

『プロットポイント1』とは、20〜25分、または30分(全体が100分なので16〜20分、または25分)、第一幕の終わり、または第二幕の始めに配置されるポイントで、『非日常に入る引き返し不能地点』での、『セントラル・クエスチョン(当選できるか?)は変わらないまま、主人公の欲求が変わる、ダイナミックでドラマティックな出来事』である。主人公の欲求は中国女の口論等により、『選挙活動』から『知名度(看板)を得る事』に変わっていく、そしてたどり着くのが(あらかじめ予定されていたが)、23分から始まる、政見放送である。ゴーン・ガール(2014)も、なぜか今作同様『主人公が初めてテレビで記者会見を行う』という出来事をプロットポイント1(24分)に置いているのだった。

『インサイティング・インシデント』の中国女と『プロットポイント1』の政見放送をもって、第一幕が終わり、非日常である第二幕に入る。主人公は、テレビに出た事により、ある意味有名人になった状態で非日常に入り、選挙活動を始める。

第二幕の『対立』は、ホテルで政見放送見終わる、外山インタビュー、ホテルでTwitter、地下街演説(政見放送で見たという街の人)、岸田届け出、岸田インタビュー、地下街演説(警備員)、櫻井インタビュー(難病の話)、中村届け出、中村インタビュー、中村演説、あいりん地区インタビュー、高橋届け出、高橋インタビュー、あいりん地区インタビュー(羽柴の話)、高橋インタビュー(羽柴の話)、羽柴インタビュー(鞄の話)、地下街(『後半戦』・黒人・BGM)、色んな大阪の名所で演説(頭はたかれる)、息子インタビュー、維新の会事務所へ乱入、梅田の人ごみ、車内(京大が楽しみという話)、京大、京都河原町、息子インタビュー、の順番で構成される。

『対立』と言っても、対・維新の会以外は、他の候補者と戦っている訳ではなく、他の候補者を紹介して行く形で、対立の『構造』を作っている。そして対立しているのは候補者だけではなく、息子や聴衆も含まれている。

ピンチだらけにも見えるマックの選挙活動、その中でも明確な『ピンチ』は意図的に置かれているのか?『8.ピンチ1』は二幕前半の中間に置かれるべきもの。その時間を探ると見えてくるかもしれない。二幕の26〜71分の前半は26〜45分まで、その中間は35分、何と見事な事に、35分からの出来事は、地下街の街頭演説中に櫻井が警備員に連れて行かれるシーンである。このシーンでは、これまで誰にも怒られることなく無駄で無意味な演説ばかりしていた、ボケっぱなしのマックにようやく『警備員』という権力のツッコミが入るのだった。

続いて『9.ミッドポイント』は、全体の中間にある、本格的に危機になる分岐点であり、アクションポイント、主人公の危険度が急に上がる、本格的に敵と戦い始める転換のポイントでる。
羽柴のインタビューの後にわかりやすく『後半戦』というテロップが入るが、このシーンに果たして敵は出てくるのか?映画全体を見ると、一見、敵は維新の会のはずである。だが維新の会の事務所への乱入はまだ先。
この『後半戦』のテロップの入るシーンは、いきなり酔っぱらったクレーマーじじいとの口論から始まる。カメラを押さえるじじいの映像は、予告編でも使われている。
マック「あんたここで喋って」「ワシは立候補していませーん。立候補してる人はちゃんと主張しなさい言うてんねや」。いつもの持論を持ち出すも、酔っぱらいに皆の前で本質を突かれてしまった。映画全体で見ると平常運行のシーンだが、実は、初めて『選挙活動が聴衆に迷惑がられる(怒られる)』シーンなのだった。
ここまでの選挙活動で聴衆をあぜんとされたり、櫻井が駅の警備員に連れて行かれたり、といった事はあったが、聴衆からの『迷惑だ』という指摘までは無かったマック。この『後半戦』のテロップが出る『9.ミッドポイント』で示されるマックの敵こそ、本来の敵、『聴衆』であったのだ。そしてこれから後半も迷惑をかけまくるのだった。

そうなると、『10.ピンチ2』はどこになるのか?選挙活動をめぐる物語のバトンは、二幕前半の中間の『8.ピンチ1』、自由なはずの選挙活動が警備員に初めて止められる、という地点で、警備員に渡される。しかし『公職選挙法の下』所構わず演説を続ける。そして二幕後半の中間に置かれるべき『10.ピンチ2』、バトン受け取り地点は、45〜71分の中間、58分あたりに置かれているはず。そのあたりでは何が起こっているのか、そう、維新の会の事務所への乱入であった。物語のバトンはファーストシーンの松井以来初めて出てきた敵、『維新の会』へ渡されたのだった。

そして『11.プロットポイント2』は、80〜90分(100分なので66〜75分)、二幕の最後に置かれるべき最悪の状況。主人公の主張や考え方が破壊され、負けてボロボロでやぶれかぶれになって、そこから復活するきっかけ、自分の殻を破るきっかけになる、三幕に向けてのタメの要素である。ハリウッド映画でも三幕が始まる前には最悪の状況になるのがお約束であって、一番記憶に残る、誰が見てもわかりやすい悲しむべきポイントだろう。
そして見事な事に、66分0秒にマックは、京都河原町で道にタンバリンをぶん投げるという狂人的行動を起こした。そこから71分まで、警官に職務質問され、交差点の中心でむちゃくちゃに暴れ、権力の最高峰、公安に怒られるのだった。マックの精神は定石通り、『9.ミッドポイント』の酔っぱらいの正論から公安の登場に至る二幕の終了間際まで、ズタズタに引き裂かれる。心斎橋では頭をはたかれ、維新の会ではゴミ扱い、歓迎されると思っていた京大では厄介者扱いの、政治家を目指している癖に、聴衆と権力の両方につまはじきにされ、同時進行で、息子からもインタビューで煙たがらるという、華麗な転落人生なのだった。
どん底に滑り落ちたマック、第三幕の『解決』で本当に解決するのか?

『解決』の三幕の前に、その他のハリウッド的な構成の要素。
まずは『15.サブプロット』、これは本筋と並行して同時進行で語られる別の話。本筋と違い、クサいベタなテーマであるのが基本。
本筋を『維新の会が仕掛けた選挙に、挑戦するマック』と考えると、一見、岸田・高橋・中村へのインタビューがサブプロットに見えるが、選挙の話はやはりメインのプロットで、候補者は全て、主人公の本筋の敵対者なる。そうなれば、サブプロットは『親子の愛』の話だろう。櫻井家とマック家、そして中村家と高橋家、四組の親子の話が登場する。マックの息子の登場が遅いのも、サブプロットだからである。息子のインタビューを『後半戦』のテロップより前に置くと、『選挙』の話でなく『親子の愛』の話に捉えられかねず、見ている人に、どっちかしぼれ!と思われてしまう。 

ミッドポイントから落ちぶれていくマックに追い打ちをかける為のキャラだった息子は、なぜか秋葉原に登場し本筋に併合され、陰毛の生えた立派なサブプロットに成長するのだった。

続いて『16.外的目標』、これはマクガフィンとも呼ばれる仮のゴールである。例えばルパン三世はお宝を求めるが、オチではそれが燃えてしまったりして結局手に入らない。例えばパルプフィクション(1994)では、登場人物達が奪い合うケースの中身を、映さない。
『マクガフィンとは何か』を象徴する話として、監督・ヒッチコックがウランをお宝にしたサスペンス映画の準備をしていたところ、コンプライアンス的にNGが出て、その際、じゃぁウランはダイヤにすっよ、マクガフィンなんだから原発とかどうでもえんじゃと返した話がある。
燃えたり存在しなかったり別の物に変えられたり、『16.外的目標』はゴールのフラッグでしか無いのであり、手に入らなくても映画ができあがってしまう物(お宝)であって、今作でマックが選挙に受かる事は、誰の目から見ても始めから明らか無理!だという事を考えると、『選挙の当選』というゴールは、マクガフィンの機能を果たしていると言えるだろう。今作の『16.外的目標』は『選挙の当選』である。

では『17.内的目標』、心的なゴールは何なのか?マックの場合は自分の生き方や親子問題の解決だろう。それらは秋葉原で息子が大声で言ったセリフたちによって、解決するのだった。

『18.敵対者』はダースベイダーのような敵、橋下である。
『19.指導者』はファイトクラブ(1999)のタイラーのような、主人公の目標、直接会ってはないが外山である。
『20.モチーフ』はメタファー、及びモンタージュ。表現したい事を直接説明せずに別のものを使って見せる。見ている人がわかるかわからないか、微妙なラインを突かないとならない。丸わかりだとダサくなる。壁の色さえもモチーフになる。いくつかのテロップのフォントや効果音をゲームのようにしたり、櫻井長男がピュアに落ち葉を求めたりするシーンがこれにあたる。

そして最後の幕、第三幕の構成の順番は、維新の会との戦い、櫻井病院(維新の話)、橋下記者会見、櫻井病院(落ち葉)、維新の会との戦い(維新選挙カーに近づくマック)、バンザイするTV画面と順位のテロップ、岸田インタビュー、高橋インタビュー、中村インタビュー、安倍との戦い(息子キレる)、息子インタビュー、安倍との戦い(安倍登場)、短い中村カット、短い高橋カット、短いマック・櫻井・岸田が同時に収まったカット、櫻井病院(難病長女を抱く長男)、カメラに微笑むマック、となっている。

三幕に含まれる要素は『12.クライマックス』と『13.レゾリューション』と『14.エンディング』である。『12.クライマックス』は安倍との戦いに思えるが、クライマックスの後に、本来は数分で済ませるべき『13.レゾリューション』を長くしているので、『12.クライマックス』は維新の会との戦いになる。マックの二大敵・『維新の会』と『聴衆』との戦いが描かれ、戦いにはもちろん負ける。そして敗戦を認め、これまで外山に憧れるように外山の真似をしていたマックだが、今度は橋下に憧れるように、橋下の選挙カーに近づく。
そこからマックに追い打ちを掛けるように、全員の順位のテロップが出る。『5.セントラル・クエスチョン』の『マックは当選できるか?』には、ハリウッドらしくはないが『NO』という答えが出て、記者会見の冷酷な橋下、メタファーとしての落ち葉を掴む子供、負けてもアダ花のようにあがくマックが映される。このまま映画が終わっても問題は無い。

しかし、ここで番外編が始まるかのように、黒みに『敗戦の行方』とテロップが出る。ここから『13.レゾリューション』に入り、候補者それぞれ上から順に、『順位のテロップ』と『インタビュー』という、スポーツ番組の様な構成で、選挙後とこれからが語られる。そしてまだ解決していなかった問題が片づけられる。相変わらず拒否する岸田、ポジティブな意思を見せる高橋と中村、そしてマックの番だが、マックの前に候補者であるかのように『息子・戸並健太郎』とテロップが出る。監督の中では、『誰もが泡沫候補である』という意味を成しているのだろうか。このチャプターで、キレる息子とそれを抑える櫻井、それを見て怪獣のように笑うマックが映され、言葉を交わさずとも親子の問題が解決される。
そして息子のインタビューを挟んで親子問題を完了させ、安倍との戦いに戻り、安倍が登場。演説する安倍に沸く聴衆。そして安倍に被せて自己紹介するマックにキレる聴衆。 
安倍から「そこちょっと静かにして」とツッコマレる。警備員、酔っぱらい、京大生、警察、公安から大阪市長へと、ツッコミの規模は上がって行き、いよいよ総理大臣にツッコマレて終わるという、これは、マックによる、ただの『ボケの限界への挑戦』だったのかもしれない。

そして『14.エンディング』はラストショット。今作の場合は車に取り付けられたカメラを見つめて微笑むマックだろうが、その前にも候補者や櫻井家、それぞれが短いカットで繋がっている。この、各人のカットと、そしてオープニングのロールスのショットと対になる、車の正面から道を映した、エンドロールのカット、これらが一体となったのが『14.エンディング』であろう。『14.エンディング』では、観客を高揚させ満ち足りた気分にさせて、見た後の行動や考えを変えなければならない。果たしてあなたは変える事ができただろうか。

俺はもちろんそれら全てにチェックマークが付いた。なんだろう、この感動は?過去にも味わった事がある。そうだ、カリオストロの城である。土地の政治を仕切るカリオストロこと橋下の元に、流れ者のルパンことマックが、クリカンさながら京大生にパワハラをしながらやってくる。たまに同調する聴衆は銭形。常にサポートする理解者の櫻井は次元。最後にマックに心を盗まれる息子はクラリス。知事選は偽札のゴート札。政見放送はルパンの犯行声明。本来、もっとメデイアミックスされるべきマックの次にすべきことはこんな明らかクソな映画http://camp-fire.jp/projects/view/2175 
に出る事ではなく、パチンコCRマック赤坂だ!